東アジア半導体サプライチェーンの再編とその未来

経済のグローバル化と分業の拡大や産業集積の形成にともなって、サプライチェーンが寸断される可能性は過去に比較して高まっている。半導体の供給権はほぼ米国企業がアジア企業に生産委託する形となり、言い換えれば、米国からの「単行垂直の譲り合い」であろう。半導体製造企業は米国が過半数であるが、実際の半導体の生産能力については、韓国、台湾、中国、日本の4カ所を合計すると世界の約80%を占めるという東アジアに集積した状態にある。2020年から、米国政府が積極的に『経済繁栄ネットワーク』(Economic Prosperity Net­work)を進めて、日本、オーストラリア、インド等六カ国と共に信頼パートナーシップを構築し、サプライチェーンの中国への過度な集中と貿易秩序の見直しを目指して行われている。

米中対立により輸出制限と経済安全保障問題とのリンクによって、半導体・エレクトロニクスについては自動車製造などとは異なり、非常に速いスピードで再編に向かって動いている。アジアのサプライチェーンには、しばしば起きる人為的な原因に限らず多くの脆弱性があると考えられるが、こうしたリスクの発生はむしろサプライチェーンの転換に向けることに繋がっていると言えるだろう。

米中対立が激化してから、それぞれのグローバル企業は今までのように中国を唯一の生産基地とすることを考え直し、中国から徐々に世界各地に生産基地を設けるバランス型に転換しつつある。特に、今年8月、中国の猛烈な批判を受けながら、米国下院議長ペロシ氏は台湾を訪問し、東アジア半導体サプライチェーンの再編が加速された。台湾にとって、米国により主導している「半導体同盟-チップ4」は、理念を共有する経済圏の間で価値と標準を共有しあい、新しいサプライチェーンの再編を目指すことでその強靭性を強化し、危機的な状況下に陥った際にも、自分の安全を確保し、政治的脅迫を受けにくくするサプライチェーンネットワークの構築を目的としたものである。

「チップ4」は米国バイデン政権が中国を除いた日本、韓国、台湾と共有する半導体サプライチェーンのネットワークである。このように述べられた時、まず思ったのはアジアに依存する米国半導体の弱点が浮き彫りになったことである。現時点で世界の半導体生産(約65兆円)はおよそ8割ぐらいアジアに集中している。国別で言えば、韓国は全世界半導体の生産24%、同じく台湾は23%、中国は15%、日本は14%を作っている。これに対して米国は世界の全半導体の10%しか作っていない。つまり、米国は直接に他国の半導体生産を干渉することも思った以上に難しい。

ここにきて重要なのは、韓国が世界の半導体の1/4を作っていることであり、台湾はそれに迫る勢いとなっていることだ。そして、台湾は世界最大のシリコンファンドリーTSMCをはじめとして、米国の先端半導体を多く作っているところである。ほとんど考えられないことであるが、もし戦争が起こり、中国側は台湾の半導体産業を手中におさめろう。そういう状況下になれば、米国は中国からサプライチェーンを切ってくることも考えられる。国家の安全保障、軍事防衛を考えた場合に、追いつめられるのは米国なのである。

「チップ4」の中で、韓国の腰は一番重い。なぜなら、韓国の2021年半導体輸出額のうち中国向け輸出は約7兆円もあり、約40%を占めている。二大メーカーのサムスン電子、SKハイニックスの売り上げにおける中国が占める割合も30%を上回っている。韓国の半導体産業にとって、中国はもはやなくてはならない存在であろう。それゆえに、韓国政府と企業は米国から「特別輸出免許」を取得する方向へ調整していきたいという意見なのである。

一方において、米国が中国の半導体技術を封じ込めようとしている戦略は台湾半導体産業にとって政治的なリスクを高めている。特に米国がファーウェイ社だけでなく、ほぼ全中国系の半導体会社向けの輸出規制を強化したことは、台湾系半導体会社の経営戦略に莫大な影響を与えた。例えば、米国商務部のHUAWEI禁止令の下、同社向け輸出の許可を得られなかった。台湾の半導体に関する産業と深く結びついているアップルも既にリスクを避けるため中国における生産拠点を大きく見直しておる。これにより台湾の受託企業も、中国の工場を中国資本に売却せざるを得なかったところもあり、インドやベトナムに工場を移転させる動きも続いている。これらはいずれも、グローバルサプライチェーンの大幅な見直しが進む中で台湾企業が国際的生産体制の見直しを進めた結果である。

日米同盟に基づき、日本は当然「チップ4」に賛意を表明している。それどころか、日米経済政策協議委員会つまりは「経済版2+2」の初会合を2022年7月29日に開き、次世代半導体開発について日米同盟をスタートすることも決めた。今、日本の半導体生産は中国に追い抜かれてしまった事実も回避できない日本国内に新たな研究開発拠点を整備した上で、産業技術総合研究所、理化学研究所、東京大学なども参加し、米国側と協力し線幅2nm以下の共同開発を進める。早ければ、2025年の稼働開始を目指すという。 中国政府が半導体関連企業の設備投資に対し、巨大な補助金を今後も出し続けていくのであれば、より強い存在感を示している。そこでバイデン政権が打ち出したことは中国を封じ込めるための様々な政策である。中国政府の補助金に対抗し、バイデン政権は半導体産業に向き、米国で半導体新工場を20カ所建設するため、5.7兆円の特別予算案を立った。まず動いたのはTSMCであり、アリゾナに新工場を建設することを決定、次に韓国サムスンがテキサスに半導体新工場を建設することを決め、さらに投資追加する計画もある。

米国にとって、現在の米中関係がどこまで悪化するか不明な部分もあるが、米中のハイテク分野における競合関係は米国および同盟国の経済安全を脅かす可能性があるという認識は、米国では議会を含めて広く認識されてきている。これから、米国の主導により、中国への技術制限がますます厳しくなる一方で、東アジア各国と半導体産業はどのようにすれば、米中の間にバランスを崩れないよう悩んでいるだろう。

Major Teng is a research fellow at Asia Pacific Regional Development Institute of Hong Kong and he focuses on East Asian studies and China-Japan comparative politics research.